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トリミング

合法的な「ととのう」サウナのススメ 


皆さんはサウナでととのったことはありますか?

実は私も最近知ったことなんですが、
サウナには「ととのう」という段階があります。

ととのうとは、
サウナ、水風呂、休憩を繰り返すことにより、
心身ともに整った状態を指します。

芸人さんのラジオで、「ととのう」が紹介され、私は興味を持ちました。

この「ととのう」という状態ですが、
交感神経と副交感神経が入れ替わる瞬間に起こる現象らしいのですが、
これがなんとも気持ちいいらしく、この状態に入ると何も考えられないぐらいぼーっとしてしまうらしいです。
その状態はIQが2ぐらいになっているという話です。

いよいよアウトローな匂いが漂ってきますが、合法です。

7月上旬、ひと夏の思い出作りに、ととのってみたいな、と思いつきました。
なんだかうすら怖いけど、好奇心が打ち勝ち、近所の銭湯へやってきました。

これから「ととのう」のだ、と思うと、近所の銭湯も戦場に思えてきます。
「気持ちで負けては駄目だ。俺は今日、ととのうのだ。
と自分に言い聞かせて、胸を張り、意気揚々と受付に向かいます。
「あ、入浴でしたら、券売機でチケットを買ってください。」
券売機を買うタイプの銭湯でした。
しかし、ここで動揺していたらやつらの思う壺。
私は当然のことのように踵を返し、颯爽と券売機に向かい、チケットを購入。
「こんなことでつまづくわけにはいかない。俺は今日、ととのうのだ。

無事、入場を済ませ、脱衣。
これから戦場に向かうというのに、
全裸であることに少しの便りなさを感じますが、これがサウナの正装。
やはり堂々と場内を闊歩。

手早く体を洗い、入浴。そして、いざ、サウナへ。

サウナの扉ってなんでこんなに重いんでしょうか。
室内外の温度差とか湿度とかが関係しているのでしょうが、
そのときの私にはその木製の扉が、異様に重く感じました。

その扉をこじ開けると、中には既に5人の猛者が鎮座しているのでした。
適度な距離を保ちながらも、それぞれがそれぞれの戦いをしていました。
その鋭い眼光は戦う男の目、もしくは血に飢えた野獣。
新入りの私を一瞥し、「お前にととのうことができるのか※幻聴」と語りかけてきます。

私は少したじろいで、一瞬その場に立ち尽くしました。
しかし、すぐに気持ちを持ち直し、目の前の席に腰を下ろしました。
木製のひな壇が3段あり、各段に長尺のバスタオルのようなものが敷いてあります。
その一番下の段に座ると、お尻が一気に熱くなります。
すぐにでも飛び出したい気持ちをぐっと堪えてじっとその場に固まります。

ひな壇の最上段から鋭い視線を感じます。
そのとき、私ははっと気づきました。
そうです。サウナ上の段の方が暑いのです。
「おまえのような青二才には最下段がお似合いだ※幻聴」

そのような無言のプレッシャーを肌で感じて周りを見回してみると、
無言の男たちは、惰性で流れているテレビを見つめています。
私もそのテレビを見ようと思い、目を向けましたが、ここであることに気づきます。
眼鏡をしていないから、テレビが見れないのです。テレビどころか、時計も見れない。
これでは自分がどれだけサウナの中にいるかわからないではないですか。
10分ほどサウナに入り、水風呂1分、そして外気浴。
これが「ととのう」条件ですが、これでは正確な時間が読めません。

しかし、ここでも焦らない。
「ととのう」ためには焦りは禁物。
瞬時に猛者の中からターゲットをチョイスして、
「あの人がサウナから出たら私も出る」という追従スタイルに変更。

しかし、待てど暮らせど彼がサウナから出ることはありません。
何人かがサウナから出ていきましたが、彼は動きません。
じわりじわりと汗が頬を伝います。
暑い、暑い、暑い。
思えば、ここのところ少し暑くなるとすぐクーラーをつけていました。
知らないうちに暑さにこんなにも弱くなっていたとは。
現実を突きつけれても、なお、このサウナから出ることはできません。
そう、彼が出るまでは。

「まさかとは思うが、彼もまた、私をターゲットにしているのではないか。」
そんな疑念が私の心を襲います。
「だとしたら、これはとんでもないことになってきたぞ。」
突如はじまる我慢比べ大会。
私はそんな大会に知らず知らずのうちに出場していたのでした。
彼が全く諦めずに、私もまた引かなければ、我々はどうなるのだろうか。
などと余計なことを考えているうちに、彼がすっと立ち上がり、サウナから出ていきました。

勝利。

しかし、勝利の余韻を感じる暇もなく、私も出なければ、と思いましたが、
サウナから出たばかりの彼が水風呂に入っていきました。
先程まで接戦を繰り広げてきた彼と狭い水風呂で相対するなど、言語道断。
彼が出るまで見送ることにしました。

時間にして1分ぐらいのことでしょうが、これがまた長い。
というかこれは1分でしょうか?
我慢強い彼のことですから、水風呂も長めに入るなんとことは容易に考えられます。
暑い・・・早く、早く出てくれ。

私の思いが通じたのか、彼は水風呂から出てきました。
それと同時に、私もサウナを飛び出しました。
軽く水を浴びて、水風呂へ一歩一歩足を踏み入れます。
これがまた、恐ろしく冷たい。冷たいというより痛いに近いでしょうか。
水風呂に浸かっている部分は冷たいですが、上半身は熱いという妙な状態です。
慎重に身体全体を水風呂に漬け込みました。
キンキンに冷えた水が一気に私の身体を冷却していきます。
手足の末端に痺れのような感覚すらあり、5秒ぐらいで飛び出したくなります。
しかし、ここも我慢。ここを乗り切れば、憧れの「ととのう」に突入できます。
体中が冷えて寒くなってきたところで、ようやく1分が経過します。※体内時計

水風呂から上がると、身体が暖かく感じます。
サウナの熱がまだ身体のどこかに眠っていたような感覚です。
露天風呂へ移動すると、サウナ、水風呂を終えた猛者たちが思い思いの場所でくつろいでいます。
先程の殺伐とした空気とは違い、なんだか非常に穏やかな雰囲気です。

私も手ごろな岩の上に腰をかけ、休むことにしました。
先程まで水風呂で寒い寒い言ってたのが嘘のように、有り得ないぐらいの量の汗が額から落ちてきます。
身体の様子がおかしいですが、私は既に「ととのう」に入っており、思考ができません。
「汗が・・・出ているなぁ・・・」ぐらいのことしか考えていません。
このときは身体は暑くもなく、寒くもなく、ちょうどいいぐらいの感覚になっています。

サウナではあれだけのオーラを放っていた猛者たちも、惰性で通販番組を眺めている始末。
「今ならこちらの真珠がこのおねだん!」
猛者たちは誰も買わないんだろうけど、それでもそのテレビを眺めるしかない猛者たち。
これがIQが2の状態なんでしょうか。

目の前に金髪の兄ちゃん2人組が座っていて、やっぱり通販番組をぼーっと見ていたのですが、
片方が「そろそろ・・・出るか・・・」と言いましたが、
もう一方の金髪が「・・・・ぉん・・・・」と言ったまま微動だにしません。
「この状態では会話もままならないんだなぁ」とぼんやり思いました。

このととのった状態、めちゃくちゃ気持ちよかったです。
中学の頃、バスケの練習試合を終えて、シャワーを浴びて、家で横になっているときと同じような感覚でした。
なにも考えられないけど、なんだか気持ちいい。
そんな感覚が「ととのう」なのかもしれません。

大人になるにつれて、新しい体験って減ってきてますよね。
これから季節の変わり目で、体温調節が難しくなってきます。
皆さんも是非、「ととのう」にチャレンジしてみてください。
きっと新しい自分を見つけることができますよ!


あなたが重い扉を開けるのを、サウナの中で持ってます。


Y.S


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