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トリミング

筋肉は嘘をつかない

先週、大学時代の友人達と久しぶりに集まって飲み会を開きました。
懐かしい顔ぶれの中、一人の容貌に変化が見られ、違和感を覚えたのです。


「・・・なんかゴツくなった?」
「わかる?」


彼はニヤついて腕を差しだすと上腕二頭筋の筋肉に力を入れました。
社会人になってから筋トレに目覚めて鍛えているとのことでした。
かく言う私も、年始から若干腹筋をしていますが、消費カロリーが摂取カロリーの足元にも及ばず、完全に焼け石に水状態です。
そんな私とは対照的に、彼のトレーニングは本格的で3種類のスクワットをしているということ以外には素人の感覚ではほとんど理解することができませんでした。というより真面目に聞くことを早々に諦めただけなのですが・・・。


「もう筋肉の話はいいから、近況を聞かせてくれ。」


私はより一般的な話題に切り替えました。


「ところで彼女はできたのか。」
「彼女はいないが、俺には筋トレがある。寂しくないし、女性と出会う時間があればトレーニングに費やしている。」


こうなってくると少し怖くなってきて、彼が筋肉に憑りつかれたようにも思えてきました。


「それに・・・女性は嘘をつくが筋肉は嘘をつかない。鍛えたら鍛えた分だけ結果にあらわれる。」


この名言が出てきたところで、この日、筋肉の話をするのを禁じました。




集まった面々には大なり小なり変化はあり、彼のように筋肉に身を捧げるものもあれば、近々結婚をするというめでたい報告もあり、何だかんだで楽しく、宴会は盛り上がりました。


世も更け、解散となり、タクシーを捕まえました。
この日、何度か会場を変えて飲み食いをしていたため、財布の中が心もとない状態になっており、途中で気付いていたのですが、タクシーでは家まで帰れませんでした。
それでもタクシーに乗り込み、持っているお金で行けるところまで行ってもらい、コンビニで下してもらいました。


「運転手さん、ここから家までどれぐらいですか?」
「10kmぐらいですね・・・本当に大丈夫ですか?」


酔っていたこともあり判断力が鈍っていたのか、歩いて帰ることにしました。
そこからが地獄でした。
左右どこを見渡しても田んぼばかりで、風が冷たく体の芯から凍えました。
寒い寒い寒い寒い寒い・・・
寒さに負けて、走りだすのですが、運動不足がたたりすぐまた歩く、というのを繰り返しました。
半分ぐらいまで歩いてきたかという頃にはもう脚が痛く息も切れ切れでした。
ぼんやりと、楽しかった宴会のこと、温かった店のことを思い出します。


「筋肉は嘘をつかない」


彼の言葉があざ笑うかのように私の頭によぎります。


「筋肉は嘘をつかない」


「筋肉は嘘をつかない」


それからは呪文のようにその言葉を頭の中でつぶやきながら歩きました。
彼の名言が体に絡みつき、自分の体重がより重く感じました。
気が付くと家に着いていました。


それから私は腹筋の他にスクワットを始めることに決めました。
なぜなら、筋肉は嘘をつきませんから。

Y.S


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