大阪のお遍路さん
20年ほど前の夏のお話。
思うところがあり、カメラ片手に車で一人旅に出かけた。
四国一周。八十八箇所の旅。
車を走らせ、寺を巡り、温泉につかり、車で野宿。
そんな貧乏旅。
阿波、土佐、伊予、讃岐を一気に回る通し打ちと呼ばれる旅だった。
ひと寺ひと寺回る度に、納経所で御朱印を頂く。
それをひたすら繰り返す。
そうやって周っていると、色んなことを自然と考える。
自分のこと、家族のこと、大学のこと、これから就職してからのこと...
希望を持ってガムシャラに駆け抜けた大学時代のゴールを目の前にし、
自分でも認識していなかった不安を抱えていた事に気付かされた。
そんな感じでお遍路を続けていると、同じようなペースで周る他のお遍路さんと顔見知りになる。
『また会いましたねぇ』
『君、学生さん?』
と声をかけてもらうこともしばしば。
ある日、大阪から来ていたご夫婦にお昼をご馳走になりながら会話していた時のこと。
来年就職すること、将来に漠然とした不安を抱えていること、色んな話をした。
その方の苦労話なども伺い、いろんなアドバイスを頂いた。
別れ際に旦那さんから一言「頑張りや!」という言葉と、
奥さんから饅頭を持たせてもらった。
次の寺を目指す車の中。気付けばとても心が軽くなっていた。
お遍路さんには”同行二人”という言葉があって、
お大師さんが一緒に周って下さるそうだ。
この出会いも、そのお陰だったのかもしれない。
先日御朱印帳と御姿帳を見返すことがあって思い出したお話。
あの時の事すっかり忘れていたけど、
今でもこの会社で元気に働かせてもらっています。
おっちゃん。ありがとう!
N.I